介護現場では入居者の安全確保のために、事故や危険につながる行為を防止する必要があります。このときに起こってしまう恐れがあるのが「身体拘束」です。この記事では、介護現場における身体拘束について、起こってしまうその原因とは何かを解説します。
目次
介護現場における身体拘束とは?
身体拘束の種類
身体拘束が行われる原因
入居者側によるもの
介護側によるもの
■介護現場における身体拘束とは?
介護現場における身体拘束とは、認知症や精神的な問題を抱えている方に対し、「事故の危険がある」「治療の妨げになる」などの理由から、入居者の行動を制限することを指します。たとえば立ち上がらないようにベッドや車椅子にひもで身体を縛ったり、一人で出歩かないように居室に閉じ込めたりするなどの行為が該当します。
身体拘束は、入居者とその周囲の方の安全を確保するために、緊急やむを得ない場合を除いて禁止されています。この「緊急やむを得ない場合」とは、以下の3つの要件をすべて満たしている必要があります。
- 切迫性
入居者本人や他の入居者などの生命や身体が、危険にさらされる可能性が著しく高い場合
- 非代替性
身体拘束以外に適切な代替手段がない場合
- 一時性
身体拘束は必要最小限の時間でなければならない
身体拘束は、3つの要件すべてに当てはまり、さらに施設全体での慎重な判断や必要な手続きが行われている場合に限り、例外的に認められます。
単に「危ないから」「他の方に迷惑だから」という理由だけで入居者の行動を制限することは、「監禁罪」などの罪が問われる可能性があるのです。
そのため介護施設では、不適切な身体拘束を防止するための対策を講じることや、身体拘束を行わずにすむように環境改善を図っていかなければなりません。
■身体拘束の種類
身体拘束の対象となる具体的な行為には、どのようなものがあるのでしょうか。厚生労働省が発行した「身体拘束ゼロへの手引き」によると、以下のような具体例が紹介されています。
- 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
- 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、四肢をひもなどで縛る
- 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋などをつける
- 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
- 脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひもなどで縛る
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
- 自分の意思で開けることのできない居室などに隔離する
参考:厚生労働省「身体拘束廃止・防止の手引き」
これらはあくまで一例であるため、他にも身体拘束に該当する行為があることに注意しなければなりません。たとえば、近年ではセンサーやカメラを活用して見守りを強化する施設も増えています。カメラを設置することは「常に撮影する=入居者の監視」につながり、介護施設によっては身体拘束に該当すると判断する場合もあります。
介護施設において、なぜ身体拘束を行ってしまうのか、その原因を見てみましょう。
入居者側によるもの
入居者が抱えるさまざまな問題が原因となって、身体拘束を行うケースがあります。
介護施設に入居する多くは、高齢に伴って身体的・精神的な問題を抱えており、常に危険と隣り合わせの環境です。たとえば身体的な機能に問題があれば、起き上がったり歩行したりすることで、ベッドからの転落やつまずきなどの事故につながってしまうかもしれません。また認知症の方の場合、徘徊して施設外に出てしまい行方不明になる事故や、点滴などの医療行為を妨げる、周囲の方に危険を与えるなどのリスクも伴います。
介護スタッフは、入居者本人や周囲の方の身の安全を守り、危険を回避しようとして、身体拘束にあたる行為をしてしまうことがあるのです。
介護側によるもの
身体拘束は、介護施設側の問題が原因となる場合もあります。大きく関係しているのが介護業界の人手不足問題です。介護業界は、労働人口が減少している一方で介護ニーズが増加しており、慢性的な人手不足が問題となっています。そのため少ない介護スタッフで、多数の入居者を見守らなければならない状況が起こります。
人手が足りていなければ、「徘徊癖のある方が外に出ようとしている」「立位が難しい方が一人で歩こうとする」などの事態が同時に発生した場合、十分に配慮できなくなるでしょう。そして「やむをえず身体拘束を行ってしまった」ということにつながってしまうのです。
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ではこの身体拘束が起こってしまった場合、そのような影響を及ぼすのでしょうか。次回の記事にて詳しく解説していきます。