「ヒヤリハット報告書」と「介護記録」書き方と意義

介護経営

2025.06.16

介護の現場におけるヒヤリハットとは、介護中にあやうく事故につながりそうな危ない場面であり、「ヒヤリ!」や「ハッ!」とした状況のことです。介護の現場にいる方ならば、誰でも一度はそんな場面に遭遇したことがあるのではないでしょうか。

ここでは、介護記録とヒヤリハット報告書の作成の仕方について説明します。

 

目次


介護現場でヒヤリハットを書く目的とは
介護記録を書く目的を明確にする
コンプライアンス(法令遵守)の面からも重要
利用者・ご家族とスタッフのコミュニケーションツールになる
介護記録は「ヒヤリハット」や「クレーム」等のリスク予防
介護記録を上手に書くポイント
介護記録は5W1Hが基本
自分が見たこと聞いたことをそのまま書く
利用者の訴えや状態の変化、家族の要望はその後の処置や対応も書く
介護の流れを書く
誰が見ても分かりやすい文字と言葉で書く
誤字・脱字がないか確認する
根拠に基づいた介護の視点を持つ
介護現場におけるヒヤリハット報告書の書き方
基本的なルールとポイント
5W1Hを基本に
まとめ

 

■介護現場でヒヤリハットを書く目的とは

介護現場で負担になる業務の一つとして介護記録があります。忙しくて書く時間が取れない、そもそも書くことが苦手など、負担になっている理由はさまざまです。

しかし、介護記録は介護サービス事業者が利用者にケアプランや介護計画書に沿って、どのようなサービスを実施したのかを記録・保管することが介護保険法において義務付けられており、必ずやらなければいけない業務です。

 

ヒヤリハット報告書を記載する前に重要なのは、日頃の介護記録の記載になりますので、介護記録の書き方や、書いたものをヒヤリハットに活用するためのポイントを紹介します。

 

介護記録を書く目的を明確にする

何事にも目的意識を持つことが大切ですが、介護記録も同様です。漠然と書くと「面倒だ」と感じられがちですが、利用者に日々「質の高い介護」を提供するために必要なものという目的意識を持つことが大切です。また、皆さんに何か疑いをかけられてしまったような際に「自分の身を守る証」となります。そうした目的があることを念頭に書きましょう。

 

コンプライアンス(法令厳守)の面からも重要

介護サービス事業者は介護保険法に基づき介護サービスを提供していますので、介護記録をきちんと記載しなければ法律違反になると同時に、介護保険から給付を受けられず職員の給与にも影響を及ぼします。介護報酬は改定が重ねられ、「質の高い介護職の形成」を目的にした「介護職員処遇改善加算」の創設や基本報酬のみならず、さまざまな加算要件をクリアできた事業所は、介護保険料と自治体(国・都道府県・市町村)から介護給付費として7〜9割とお客様から1〜3割いただく事ができます。

介護記録を書く時は、一文字一文字が介護給付費と利用者への費用請求につながる意識、そして「皆さんの、仕事の質の評価になる公文章」という理解を持ち記載することが大切です。

 

利用者・ご家族とスタッフのコミュニケーションツールになる

施設介護の場合は交代勤務、在宅介護の場合も複数人でお世話する事も多く、スタッフ同士だけでなく利用者ともコミュニケーションを取るのが難しいと感じることもあると思います。

利用者家族としても、施設介護ですと通常、利用者との面会時のみでしか施設での様子を知ることができません。特に近年のコロナ禍で見られるように、感染症が流行した際は面会の制限もあります。在宅介護の場合も、ご家族は日中働いていたり、遠方で暮らしていたりとコミュニケーションを取ることが難しいです。

介護記録はスタッフと利用者に関わる沢山の方々とのコミュニケーションツールです。スタッフ同士が良いケアをするためのバトンとしての役割もありますし、きちんと記載されていないと「ちゃんとケアをしてもらっているのかしら!?」とご家族が疑問を感じた際に「それを解消していただくための根拠」を示すことはできません。

コミュニケーションツールとして活用できることを考慮し、利用者やご家族など介護専門職以外の誰が見てもイメージがしやすいよう、略語や専門用語がない介護記録を記載するようにしてください。

 

介護記録は「ヒヤリハット」や「クレーム」等のリスク予防

私の顧問先や事業所で事故が起きた際は必ず事故が起こる前の記録を読み返すことから始めます。その理由は事故が起こる前、例えば利用者が転倒で骨折等をされたケースがあったとすると、転倒の可能性につながる「ヒヤリハット」の記録が残っていることが多いからです。

自分が書いた時には見落としてしまった部分を介護のバトンとして他スタッフから渡された時に、「ヒヤリハット」や「クレーム」等の気づきをもたらし、スタッフ同士のリスク予防につながることもあります。

また、自分自身も利用者のケアに夢中になっている時には気付かないことも、後で介護記録を書き、冷静になって読み返してみることで「ヒヤッとしたり」「ハッとしたり」に気付くこともあります。

「クレーム」という言葉も一瞬、嫌な言葉に感じてしまうかもしれませんが、私は期待値を込めた「ラッキーコール」だとポジティブに受け入れるようにしています。なぜなら利用者は改善される期待の気持ちがなければ、クレームを言う前にサービスの打ち切りや退去を希望されるからです。またクレームを記録するだけでなく、速やかに上長等へ報告・連絡・相談を行い、対策を講じて情報共有しておかないと、最後は訴訟問題にも発展しかねません。記録に残すことで、報告・連絡・相談の際も事実が明確になり、スタッフ同士でも共有でき、改善につながりやすくなります。

関連記事>>>介護現場におけるヒヤリハットとは

 

■介護記録を上手に書くポイント

介護記録を書く意味が理解できても、具体的な書き方が 分からないと実際に書くことができません。私が講師を務めるセミナー受講者からの質問でも「介護記録に何をどう書いたらよいのか分からない」「効率のよい介護記録の書き方を教えてほしい」といった相談が多いです。

ここでは介護記録を書く上でのポイントを具体的に説明していきます。ポイントを押さえれば、スムーズに取り組むことができますのでしっかり覚えておきましょう。

 

介護記録は5W1Hが基本

介護記録は5W1Hを明確に記入することを徹底します。

①誰が(Who)

②いつ(When)

③どこで(Where)

④何を(What)

⑤なぜ(Why)

⑥どうしたか(How)

書式を統一にすることで情報共有がしやすくなるだけでなく、「このルールに則って言葉を当てはめればいいんだ」と、介護記録を書く上での不安感を払拭することができます。
併せて注意点ですが、介護記録は公文書なので、修正する際は修正液や修正テープは使わずに、二重線を引き訂正印を押すことも重要です。

 

自分が見たこと聞いたことをそのまま書く

例えば、利用者の居室にうかがった時に、利用者がベッドサイドの床にうつぶせになっていたとします。この光景について介護記録を書く場合、「ベッドから落ち、床にうつぶせになっていた」と書くかもしれませんが、ベッドから落ちたかどうかは実際には見ていないので書くことはできません。

また、記録の中でよく見受ける「暴言」「暴力」「拒否」という言葉は、受けた私たちの感情を入れた言葉です。「徘徊」という言葉もよく介護記録に書く言葉ですが、利用者には「歩く目的」があります。このような場合にも「歩く目的」を確認し、憶測や感情を入れずに事実をあるがままに記載することが大切です。

 

利用者の訴えや状態の変化、家族の要望はその後の処置や対応も書く

 利用者からの訴えやご家族からの要望をきちんと記録し対応することは、リスクヘッジ(危機管理・予防)につながります。
SOSが含まれているかもしれない言葉の訴えや要望を誰にどのように伝え、どう対応していくのかを書くようにしてください。

 

介護の流れを書く

 交代勤務などで複数の職員が利用者にかかわる場合、誰がどのように申し送りを受け、どのように対応したかという記載は不可欠です。介護の流れをきちんと書き、情報を共有しましょう。
介護業務に入る前には必ず、前日や前回利用の記録を熟読し、「体調変化」などが記録されている場合は、その日のケアの留意点になります。それに付随したことも記録するようにしましょう。

 

誰が見ても分かりやすい文字と言葉で書く

初めて介護の職場に入り介護記録を読んだ時に、理解しにくい文字や言葉が書かれていると感じた方も多いのではないでしょうか。せっかく書いても第三者に意味が通じなければ、書いた人の自己満足で終わってしまいます。

介護業界では「略語」や「専門用語」 を使う場合も多いですが、情報開示の規程から利用者やご家族に記録を見せることもあります。日頃の頑張りを理解してもらう近道とも言えますので、利用者やご家族に開示するものに限っては「略語」や「専門用語」は使わず、分かりやすい文字と言葉で丁寧に記録するようにしましょう。

 

誤字・脱字がないか確認する

誤字・脱字が介護記録にあることは、ほかのスタッフや利用者家族が読んだ時に読みにくいだけでなく、「ケアにも抜け落ちていることがあるのかな」と疑われます。最近では、パソコンや携帯電話の普及によって、辞書で漢字を調べることも少なくなり、誤字も多いと感じます。施設や事業所には、辞書を1冊置き、分からない漢字は調べ、記録した後には必ず読み返すようにしましょう。

 

根拠に基づいた介護の視点を持つ

 利用者への介護には必ず根拠があり、この根拠を理解せずに介護を行って記録すると、1か月ごとのモニタリングの際にその根拠が残らず、間違った介護をしたことになってしまうことがあります。介護の根拠は、利用者の介護の指針であるケアプランや介護計画書などにも書かれていますので、介護記録を書く際もこのような根拠を踏まえる習慣をつけましょう。

 

 

■介護現場におけるヒヤリハット報告書の書き方

 

基本的なルールとポイント

ヒヤリハット報告書には、決まった書式がありませんので、施設や事業所で独自に定めてよいことになっています。とはいえ再発防止の検討をするためには、事実関係がきちんと書かれていなければ意味がありません。何が起きてどうなったのか、ヒヤリハットの事例を正確に伝えるために、記載するべき内容には一定のルールがあります。

 

5W1Hを基本に

皆さんの施設や事業所の書式には、「いつ、どこで、誰が、どうなった」という事実を記載するようになっていませんか? そしてその後「どうして」という原因に触れていくような書式にもなっているはずです。このようにヒヤリハット報告書は介護記録同様に、「5W1H」を基本として書くのが一般的です。

 

そして誰にも伝わりやすいヒヤリハット報告書の書き方には、介護記録の記載の仕方にもご説明したように、「略語」や「専門用語」を使用しないようにする、感情を交えずに事実をそのまま書くように務めて下さい。

 

 

■まとめ 

身近にヒヤリハットは潜んでいないか?」

ヒヤリハットが起きてしまったならば、速やかに介護記録を基に、ヒヤリハット報告書を作成して、上長やスタッフ間で共有することが大切です。それをもとにヒヤリハット研修会をおこない、スタッフから意見を集めていくことが望ましいでしょう。さまざまな事例を重ねていくことで、事故の起こりにくい環境に近付いていけます。

 

一番大切なことは、ヒヤリハット報告書は「数が多ければ多いほど事故防止に近付く」ということです。事故にまでは至らないものの、危険因子は職場のあちこちに存在するはずです。その危険の芽を一つひとつ摘んでいくことが、事故を減らす一番の近道といえます。スタッフ全員が「身近にヒヤリハットになりえる状況はないかな?」と介護記録も活用し、職場内の環境を見渡していく意識を持つのが理想でしょう。

 

介護において事故の発生は、非常に大きなリスクでもあります。物が壊れたりケガを負ったり、場合によっては生命の危険にさらされる可能性もあるのです。利用者だけではなく、スタッフの生命を守るためにも事故をなくしていく心がけが大切です。そのためにも介護記録を基にヒヤリハットの活用は、介護現場において最大のリスクマネジメントといえるでしょう。

 

執筆 株式会社ねこの手
代表 伊藤亜記氏


介護コンサルタント。短大卒業後、出版会社へ入社。祖父母の介護と看取りの経験を機に98年、介護福祉士を取得。以後、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行、大手介護関連会社の支店長を経て、「ねこの手」を設立。

 

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